式辞に先立ち、このたび、能登半島地震に被災された本学学生を含む、多数の皆様に心よりお見舞い申し上げ、一日も早いご復興を心より祈念申し上げます。
また、世界各地で頻発している武力による解決を目指す多くの戦乱につき、一日も早い武力以外による解決を祈念したいと思います。
このたび、福井大学より学位を授与されたれた学部生854名、大学院生その他含め384名の皆様、誠におめでとうございます。学長として大学を代表し、心よりお慶び申し上げます。
さて、皆さんにとって、福井大学で過ごした日々はどうだったでしょうか、
皆さんの在学中、学外からも大きな出来事がいくつか押し寄せてきました。一つは言うまでもなく、COVID感染症です。皆さんの令和2年度入学式は、感染拡大防止のため、止むを得ず中止となりました。その後も対面講義で当然享受できる議論の時間を残念な事に大幅に短縮されたことと思います。同級生同士で繋がることも難しかったかと思います。しかし考えてみれば、対面で行えるのは、対面向きの条件が整っている時に限りますが、その条件が制限される今回のような場合も一般社会では多々ある中で、その様な意見交換を行う鍛錬としては、思いのほかの効果があったのではないかと思います。
それでは日本のパンデミック対策の国際的評価は如何でしょう。多様な議論はありますが、我が国のパンデミックに対する感染対応は三密の提唱、結果としての少ない死亡者数などで比較してみるならばかなり適切だったと思います。何故日本が適切に行えたのかについては、利他的な行動に特徴づけられる「プロソーシャリティー」をあげる人もあり、もしかしたら今後の日本人の国際化にも関わる重要な投げかけかもしれません。
世界に目を向ければ、ウクライナに対するロシアの侵攻?イスラエル?パレスチナ情勢など、我々は国家同士の相対立を目の当たりにしていますが、重要なのは民族や国家に拘らず世界各地に暮らす人間同士の交流であり、人々の共感性であると思います。その意味で、母国以外での居住経験があり、将来指導的立場に立つ可能性が強い、本学留学生の皆さんの今後の国際的指導力に大いに期待しています。
さて、本日ご参加の多くの学生諸君に、送った4年前の新入生へのメッセージにおいて、私は、皆さんに新入学生として今後抱き続けて欲しい2つのことを申し上げました。1つは、ノーベル賞受賞者がよく口にされる言葉として、「知的好奇心」です。何故、何故、という疑問をこれから、専門領域のみならず、人生において自らの関わる様々な事柄について、持ちつづけて欲しいとお願いしました。2つ目には、常識を信じすぎるなということを申し上げました。世界の学問、社会の進歩は、今ある常識をいわば一里塚として、通過してゆくことで実現したもので、進歩のためには時としてそれを超えることが大切です。
一例を挙げると、近年注目を集めているChatGPTです。今のChatGPTに対する世界的な意見を集約すると、それ自体にいろいろ問題点はあるが、ChatGPTの極めて優れた利便性を考えると、使わないという選択肢はありえないでしょうが、十分危険なツールであることは間違いなく、十分な検証が必要であり、同じく使用者がその効用の限界を認識することが重要です。今一度、知的好奇心を重んじ常識を信じるなと言うことを、皆さんに申し上げておきます。
本学は、ご承知のごとく、専門職への志向が強い学部揃いであることから、卓越高度専門職業人の育成を目指しています。Society5.0時代、それはフィジカルとサイバーの融合する理想的な社会である反面、この時代には、現在実在する多くの職業が変化を余儀なくされ、しかもかなりの職業については消滅すると言われています。我々の述べる、卓越高度専門職業人とは一芸に秀でると同時にその関連分野をも包含する適応能力を併せ持ち、Society5.0時代にしなやかに自己を確立できる人材です。皆さんは、本学の目指す卓越高度専門職業人として、しなやかに生き抜いて下さい。
皆さんの人生の勝負どころの多くは大学卒業後に訪れると思います。今後の大卒、院卒者については、当然卒業後に学び直しが必要な機会が出てくる人も多いと思います。その点本学では様々な形での学び直しが可能です。というのも、本学は、学びの母港(こうは港です)を謳っています。これを実現するため、対象としては、今年度の卒業の皆さんが初めてとなりますが、卒業生同士、また、卒業生と母校を繋ぐことの出来る“福大プラットフォーム”を立ち上げましたので、是非、活用してください。
折しも昨年は工学部創立百周年の年にあたり、今年は大規模な式典も行われる予定ですが、私達も、卒業生、修了生の皆さんにとって、頼りになる大学となるよう一層努力します。
結びです。皆さんは、我々が本日自信を持って世に送り出す、福井大学の854名の学部卒業生384名の大学院修了生です。謙虚な心と共にプライドも併せ持ち、社会に颯爽と乗り出してください。以上を持って、式辞といたします。
令和6年3月22日
福井大学長 上田孝典