地下1000メートルで宇宙誕生に迫る
- 工学部(二重ベータ崩壊、ニュートリノ質量) 准教授
- 小川 泉 先生
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宇宙観測って何を観る?
小学生のころに読んだ「宇宙誕生のナゾ」特集。これが、私の大きな研究テーマになりました。遠い宇宙を観るということは、つまり過去の宇宙を観測することです。現在の標準理論である「ビッグバン宇宙論」では、生まれたばかりの宇宙は素粒子が飛び交う物質でぎゅうぎゅう詰めの状態で、ビッグバンから約38万年後の「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる時期までは光が直進できず、光を使った観測はできません。それより前の宇宙を「観る」方法は、宇宙誕生直後から自由に動き回る「粒子」を使うことです。そしてその粒子とは世界が注目する「ニュートリノ」です。
福井大が参画するニュートリノ研究
岐阜県飛騨市神岡町の地下1000メートルにある旧神岡鉱山の跡地は、わが国が誇るニュートリノ研究のメッカです。ノーベル物理学賞を2度受賞した研究を支える「スーパーカミオカンデ」と同じ坑道内に、大阪大学と福井大学などが共同で運営する実験装置「CANDLES(キャンドルズ)」はあります。直径3メートル×高さ4メートルの装置内部には外部からの環境放射線などの影響を極力抑えるため、私たちがターゲットとするカルシウム48原子核の「二重ベータ崩壊」という現象の測定に用いる10㎝立方の96個のフッ化カルシウム(蛍石)結晶が液体シンチレーター中に沈められ、その周囲を二重ベータ崩壊による発光信号を捉える62個のセンサー「光電子増倍管」が取り巻いています。
標準理論に迫る大実験
「二重ベータ崩壊」は、ニュートリノを放出するときとしない場合があります。「ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊」は現在の素粒子物理学の標準理論にはない、発生確率の極めて低い現象です。この観測に成功すれば、現在の標準理論に修正を迫る大発見です。
この崩壊は、原子核内の核子から放出された反ニュートリノがニュートリノとして他の核子に吸収される特異な現象であり、宇宙が「物質」だけの世界で、質量以外の性質が逆の「反物質」が消滅した謎を解明する手がかりが得られるかも知れません。大量の蛍石結晶を実験に用いれば、観測が容易になりそうですが、装置を大型にするとそれだけ環境放射線の影響が増加し、観測の妨げとなります。私たちはカルシウム48をさらに濃縮し、結晶中に標的の原子核を増やし観測精度を上げる研究を進めています。
この希少な崩壊現象の観測に、世界中の研究者がしのぎを削っています。ニュートリノの性質を読み解き、宇宙誕生のナゾに誰よりも早く、少しでも迫りたいと思っています。
今ハマっていること★
週末はDIY(Do it Yourself)にハマっています。ついつい、道具を買ってしまうのが難点です。