廣垣 和正 先生

繊維をさらに美しく輝きをプラスする新技術

染めるという常識を破る

(図1) クジャクの羽みなさんが着ている衣服の染色技術がさらに進化するとどのようになるでしょうか。これまでの染色は水に溶かした染料に生地をつけて着色し、ポリエステル、綿などの素材に合わせて、洗濯しても色落ちがしにくく、光に強い染料が開発されてきました。今日、水と染料に長年、頼ってきた染色の歴史はまさに変わろうとしています。染料の廃液が出ない最先端の加工方法で、より美しい色や機能を追求していく時代になりました。

私は従来の「染める」という概念から離れ、自然界の生物や鉱物が発する色に目を向けました。孔雀の羽や宝石などのキラキラとした輝きは表面や内部から外に反射する光が互いに干渉し合い、ある特定の波長の光が強調されることで見える現象です。それらの光輝く色は染めたものではなく、数百ナノメートル(ナノは10億分の1)の超微細な構造と光の作用によって見える「構造色」と言うもので、構造が保たれる限り変色することがありません。この現象を利用して染料にはない光沢のある優美な輝きを放つ色を繊維に付与する新たな着色方法を考えました。

結晶でつくる構造色

(図2) コロイド結晶光学顕微鏡像ダイヤモンドなどの宝石は小さな原子が整列した結晶ですが、オパールはそれよりずっと大きな二酸化ケイ素(シリカ)の粒子が整列した集合体です。この粒子の大きさや並び方によって、赤や緑に輝きます。そこで私は直径300ナノメートルの(シリカ)粒子を水に分散させ、親水性を高めた繊維の表面に塗布して自然乾燥させました。すると粒子は自動的に配列を形成する「自己組織化」をし、サイズの揃った粒子が均一に整列した「コロイド結晶」(図2)ができます。さらに繊維の表面にプラスの電荷を付加すると、水のなかでマイナスを帯びていた粒子に繊維の表面と相互作用する力が働いて粒子は動きにくくなり、粒子の整列の仕方をコントロールすることができました。

このように、土台となる一層目を作製し、規則的な配列の結晶構造を複数の層に積み重ねていくと(図3)、光が反射し、回折する超微細な構造を作ることができます。結晶構造やその積層構造を調整することによって発色を変えることが可能になります。

最先端の技術を拓く「繊維」

(図3) 結晶構造モデルこの研究は繊維の表面で制御した結晶が光を選択して反射したり、曲げたりすることを可能にしています。現代は電気の時代ですが、コロイド結晶を形成して目的の方向へ自由自在に光を向かわせたり、光を蓄えたりすることが可能になれば、電気に替わり光を信号伝達に用いたり、光のエネルギーにより引き起こされる化学反応を動力に変換する時代がやってくると言われています。それを支える技術開発に貢献できるかもしれません。最先端を追求するほど、あらゆる局面で柔軟な繊維の特徴は活きていきます。繊維材料で新しい未来を創造していきたいですね。

今ハマっていること★

学生時代から、車やバイクなど自分で運転できる乗り物が大好きです。子どもができてからは、一緒にドライブするのが大きな楽しみになっています。