電池の世界ノーベル賞のリチウムイオンが見える?

丸い物体の周りに、あやしいオレンジ色……。2019年、吉野彰博士のノーベル化学賞でますます注目されるリチウムイオン二次電池。その主役、リチウムの挙動を本学産学官連携本部にある「オージェ電子分光装置(AES)」で捉えた画像です。上の画像で黒く見える物体の正体はリチウムイオン二次電池の材料「ニッケル酸リチウム(LiNiO2)」の粒(直径100分の1ミリ程)です。

リチウムイオン二次電池は1990年代に実用化されて以降、社会になくてはならないものになっています。さらに小型、高性能になるよう世界中で研究が進行中です。その一つとして本学産学官連携本部では、LiNiO2などのプラス極の材料にフッ素を添加することで、リチウムイオンをよりスムーズに動かして電池の性能を向上させようと研究しています。

LiNiO2は本来、電気を通さない化合物で、電池として使うにはまず小さな粒子にし、さらに導電性のある炭素などと混ぜることで電池に使えるようになります。今回の画像はLiNiO2の粒にフッ素を添加した場合としていない場合を観察しました。実はリチウムイオン二次電池のプラス極の材料は充電すると内部からリチウムがなくなった状態になります。実際に比べてみると一目瞭然、フッ素を添加した方が充電に伴ってリチウムイオンが移動した結果、LiNiO2の粒内部からオレンジ色に映っているリチウムがなくなったとわかります。つまり、フッ素の添加でより高効率なリチウムイオン二次電池を作れる可能性を示しました。本学産学官連携本部ではフッ素の添加の仕方などで、LiNiO2などのプラス極の材料が持つ能力を100%発揮できる条件を目指して研究しています。

AESは県内の大学では本学にしかない分析機器で、「オージェ電子」という特別な電子を観測して、元素の状態まで精密に見分けることができます。特に物体の表面を精密に分析?評価することに優れています。

※写真は、AESと走査型電子顕微鏡(SEM)とで同じLiNiO2の粒を撮影して上下に並べた。