ナノの世界
今回の表紙は「ミセル」。一つの分子の中に水に馴染みにくい「疎水性」と、馴染みやすい「親水性」の両方の部分を持つ高分子の鎖が自己集合した微小の粒です。石鹸などは身近なミセルです。ミセルは内部に様々な水に溶けにくい化合物を封入できる性質があります。
医療分野では患部で薬を効率的に作用させるための輸送体としてミセルを応用する「ドラッグデリバリーシステム(DDS:薬物送達法)」の研究が行われています。
今回紹介するミセルは体温に応答し、凝集するように設計されています。がんなどの病巣に直接ミセル溶液を投与すると、ミセルは体温を受けて多孔質の塊となり、そこに長く留まって構造体の隙間から薬を放出するという仕組みです。福井大学高エネルギー医学研究センターではPET(陽電子放射断層撮像法)やMRI(磁気共鳴画像法)などの分子イメージング技術を用いて、がんなど様々な病気の早期診断や治療効果予測の研究を進めています。
牧野 顕准教授の研究グループでは、このミセルを使って、線源をミセルに入れた放射線内照射治療と抗がん剤による化学療法を併用する治療法の開発を進めています。がんの部位以外の被ばくを減らし、併用療法で高い治療効果を上げることを狙います。
「一つのミセルで二役をこなす」デザインでがんに迫ることができます。
透過型電子顕微鏡(TEM)倍率:15000倍