振動を制して
ナノの世界に触る
- 伊藤 慎吾
- ITO Shingo
- 工学部 准教授(メカトロニクス)
Profile
1981年、埼玉県生まれ。2015年、ウィーン工科大学 電気工学科 博士課程修了。安川電機勤務後、2011年、ウィーン工科大学 自動制御研究所研究員。2021年、福井大学 工学部 機械?システム工学科に准教授として着任。
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精密機器に欠かせない除振
身体で感じられないほどですが、地球上はごく微細な振動に満ちています。日常生活に全く影響しないものの、1ナノメートル(百万分の1ミリメートル)レベルの精度が求められる精密機器にとっては厄介な問題です。
取り組んでいるのは数ナノメートル以下の解像度を持つAFM(原子力間力顕微鏡)です。AFMは、観察する試料の表面を超微細な針で触り、加わった原子レベルの力から画像化する顕微鏡です。精密な針の動きには、振動は困りもの。床からの振動を分離するためには、台座ごとAFMを浮かすような大掛かりな除振装置が必要でした。
振動で振動を制するメカトロニクス
これまではAFMに床からの振動が伝わらない対策を考えてきましたが、敢えて試料と同じ振動を触れる針にも与えることで静止状態を作ることを目指しました。試料の振動を検出するセンサーを装着させ、電力を運動に変換する「アクチュエータ」が試料から受けている振動に合わせて針を動かす仕組みです。私は機械システムが持つ共振振動を針の運動に利用する制御、機械共振を床振動にマッチングさせるメカトロニクスで実現しました。こうしたナノレベルの動作には、機械?電気?電子?制御?光学技術を融合させた「精密モーションシステム」が欠かせません。今回、試作した装置では360ナノメートルの振動を2.5ナノメートルに抑え込むことができました。
この装置が実用化すればどうなるか。このコンパクトなAFMを製造ラインに組み込むことができれば、製造中のリアルタイムなチェックも実現する。さらに、振動といえば波。このAFMを船に搭載すれば、海洋生物のミクロな姿をリアルタイムに観察できるかも。夢が膨らみます。
これまでの経験では複数分野から課題にアプローチをすることでアイデアが生まれました。学部や分野を問わず、学生や教職員のみなさんと話したいです。ぜひ尋ねてください。
飲み歩き。前職のウィーン工科大学前では、クリスマスになると温ワイン(Glühwein)などの屋台が並びます。帰宅が大変でした。