細胞のナノ世界
らせん状の隙間を通る赤と緑の球体。まるで宇宙空間に浮かんでいるかのようにも見えますが、これは細胞膜タンパク質の一種「カリウムチャネル」のシミュレーション画像です。らせん状のタンパク質の中を半径0.13nmのカリウムイオン(緑や赤の球体)が細胞膜に向かって流れているところです。医療現場で使用されている心電図は体表面で電気を測定して心臓のリズムを検査していますが、そのもとを辿れば、細胞のナノ世界-イオンチャネルを流れるイオン-に行きつきます。
福井大学高エネルギー医学研究センターの老木成稔特命教授らは、実験やスーパーコンピューターによるシミュレーションで、カリウムチャネルではほとんど流れていないはずのナトリウムイオンが実際に流れているところを世界で初めて観察することに成功しました。
生物学の教科書ではカリウムイオンよりも小さなナトリウムイオンはほとんど通過しないと説明されていますが、これは常識を覆す成果です。ナトリウムイオンはサイズが小さい(半径0.1ナノメートル)ために経路の途中で多数の小さな窪みに引っ掛かりながらゆっくりと流れることが分かりました。一方、より大きなカリウムイオンはくぼみに落ち込まず速やかに流れます。
この研究成果は、「チャネルの穴をカリウムイオンより小さなナトリウムイオンがなぜ通りにくいか」という難問に対する従来の解釈を一新するもので、医学研究に新しい見地を見出すことが期待されています。