「流体」の視点から
原発の安全を守る
- 石垣 将宏
- ISHIGAKI Masahiro
- 工学部 助教(原子炉熱水力学、流体力学)
Profile
1981年、三重県生まれ。2007年3月、名古屋大学大学院工学研究科計算理工学専攻博士前期課程修了。2010年3月、名古屋大学大学院工学研究科計算理工学専攻博士後期課程修了。2010年4月から2021年3月、日本原子力研究開発機構安全研究センター研究員。 2021年4月から現職。
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惨事を繰り返さないために
2011年3月の東日本大震災による東京電力福島第一原発事故は、冷却水が失われ、炉心が損傷して燃料棒が溶融、化学反応により大量発生した水素で建屋が爆発するなど、原子力発電史上、最悪の惨事の一つとなりました。こうした過酷事故(シビアアクシデント:SA)は、複数の事象やトラブルが積み重なってどんどん深刻化します。SAを二度と起こさないために事故後に設けられた安全基準では、炉心損傷防止対策などトラブルごとに対処策が求められるようになりました。関連して冷却水や水素の挙動がどうなるか未解明の点もあります。冷却水や水素といった「流体」の動きを正確に予測し、解析する。私の専門とする、流体力学の出番です。
次世代に向けた研究を
もとより原発では、炉心や配管を循環する水などの冷却材、建屋内を満たす空気といった流体について、温度、圧力、成分、流れなどの状態を正確に把握することが、正常運転時、異常時を問わず最も重要です。私は今、観測による実測値と、シミュレーションで出した予測値を突き合わせる「データ同化」という手法を用いて、水素の挙動の従来のシミュレーションをさらに高精度化する研究を進めています。原発の安全性の基盤を支える研究だと考えています。
核反応から生物への放射線の影響まで、幅広い対象を扱う総合工学である原子力工学のなかで、流体の解析は基礎的な分野です。水素が原発内で拡散するという、万が一に備えるための研究で、かけた時間の99%が徒労に終わることもしばしばです。一方で、苦労の果てに数値解析の誤差が少ない、より現実に近い結果が出たときの喜びは格別です。このような基礎的な研究の積み重ねが、次世代の原子炉の研究者や現場の人々に役立ってくれるはずであり、何十年先に続いていく原子力だからこその研究だと思っています。
趣味は動画制作。生まれてから毎月撮っている子どもの写真でストップモーションムービーをつくるのが夢です。