下野 葉月

科学の源流 
宗教と切り離せない関係

  • 下野 葉月
  • SHIMONO Hazuki
  • 国際地域学部 助教(宗教学、思想史)

Profile

東京都生まれ。1999年、コロンビア大学バーナードカレッジ卒業(建築史専攻)。広告代理店で8年間企画営業として勤務。東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻博士後期課程修了(宗教学)。2020年、工学院大学非常勤講師。2023年から現職。
研究者詳細ページ

“正しい地図” への興味から思想研究へ

 私の研究テーマは十六世紀ヨーロッパの思想。非常にとっつきにくい分野と思われそうですが、きっかけは建築史を学んでいた学部生の頃、世界の表象の変化に関心を抱いたことです。古代や中世にはユニークな地図が様々にある一方で、近代になると人々は「正確さ」を求め、世界の表象が画一化されてきます。これは一般的に近代科学の台頭と重なります。しかし、十六世紀は学問においても、キリスト教の教えが中心にありました。自然も人も神によって作られた創造物であるため、神との関わりを無視して研究することは無意味とされていました。そんな時代に、自然を相手に実験、観察し、得られた知識から法則を発見する重要性を訴えたのがイギリスの法律家、フランシス?ベイコン(1561-1626)です。

 

研究に使用しているテキスト(Oxford Francis Bacon)

時代を超えた思いを読み解く

 ベイコンの思想は後にニュートンやダーウィンが活躍した「王立科学アカデミー」が生まれるきっかけにもなりました。帰納法を提唱した人物として近代的な印象がある一方で、神の存在を否定したわけではなく、科学の営みを、聖書や神話の語りを援用しその意義を語っています。なぜ、ベイコンは「科学」を「宗教」的に語ったのか。私が研究で最も関心があるのが、切り離しては考えられなかったこの二つの繋がりについてです。
 この二つが興味深い形で描かれているのがベイコンによる『ニュー?アトランティス』(1627)というユートピア小説です。小説では主人公が航海中に漂着したベンサレムという国の様子が詳細に描かれています。礼儀正しいキリスト教の国であると同時に、「自然の秘密」を熟知した知恵者、現在でいう科学者が国の中枢を担っているのです。ベイコンが抱いた理想郷は、科学によって国力を高めていった近代国家の在り方を彷彿とさます。
 ベイコンの自然研究の推奨は同時代の人々に向けられたものではなく、はるか後の時代を見据えていました。ベイコンによる未来への語り、世代を超えた思いを読み解くことが、現代に生きる私たちの参考になるのではと考えています。

It's My Favorite!

学生時代はバイオリンを弾いてましたが、今は息子が習うピアノを一緒に弾いて楽しんでいます。ときに彼を差し置いてピアノを占領してることも…。楽譜を読むのは難しいので、音で覚えてもらおうと思って弾きはじめました。